
GMとフォードが参入
モータースポーツの最高峰「F1」(フォーミュラーワン)は、今、かつてないほど米国企業の関心を集めています。
今年から、米フォードが20年以上ぶりにF1に復帰し、米ゼネラルモーターズ(GM)も、キャデラックによる参戦を表明しています。特にキャデラックは、これまで10チームに限定されてきた参加チームを増やす異例の扱いで、11番目のチームとなり、米国の自動車2強がそろいました。
この他に独アウディが新規参入、ホンダが5年ぶりに復帰します。
一見すれば「自動車会社がレースに戻ってきただけ」の話に見えます。しかし、その背景では、スポーツビジネスの構造が大きく変わりつつあるようです。参加者と参加車両が守らなければならない規定が「フォーミュラ」では、タイヤ、シャーシ、エンジン等技術的に厳密な規制(レギュレーション)があるだけではなく、走行中のマナーなどの規定もあります。
主催は、国際自動車連盟(FIA)と、レースの商業化をマネージする組織、さらに各大会の地元共催者の三者です。
F1は長らく欧州中心のスポーツでした。モナコ、イタリア、英国などの伝統的なサーキットで開催され、メーカーは技術力の象徴として参戦していました。
ところが、F1は急速に姿を変えているので、米国・中東・アジアの都市部で新しいレース、振興グランプリが次々に誕生し、米ラスベガスやマイアミの市街地を疾走する「都市型イベント」になっています。
前文に「人気低迷」と書きましたが、事情は少し違うようです。
FIAが公式に発表したところによると、世界のF1ファンの数は爆発的に増え、2024年には8億2650万人を超えたと報告されています。
また、ソーシャルメディア(SNS)のフォロワー数も1億人近くに達しているとのことです。
「走る広告媒体」に注目
米国企業がF1に戻ってきた理由は、技術開発よりも「広告効果」にあるようです。
米国では動画配信サービス大手のネットフリックスのドキュメンタリー番組「栄光のグランプリ」シリーズがF1人気に火を付け、若年層の視聴者が急増しました。
レース会場には富裕層、IT企業経営者、投資家などが集まり、F1は「世界最高峰の富裕層マーケット」と化しています。
フォードやGMにとってF1は、技術競争の場であると同時に、世界のあらゆるファン層に自社ブランドを直接見せる舞台でもあります。
レース参加だけでなく、周辺ビジネスにもビッグネーム企業が見られるようになりました。

アップルは昨年秋、米国でのF1レース独占配信の契約を発表しました。今年から自社が行っている AppleTV で、米国でのF1レースをすべて配信するといいます。
昨年までは、米国ではウォルト・ディズニー傘下のスポーツ専門テレビチャンネル、ESPNが配信してきたのですが、アップルは、5年で総額7億ドル規模にして契約を奪ったといわれています。
エンタメブランドへ転換
経営コンサルタントは、F1を単なるモータースポーツのイベントから、世界的なエンターテインメントブランドに転換するための”デジタル戦略 “だと表現します。
仕掛けたのは、米国のメディア・通信・エンターテインメント企業であるリバティメディア。F1の商業権を買収し、保有・運営しています。
ネットフリックスと協同して「栄光のグランプリ」シリーズを配信。これは、たった20人しかいないF1正ドライバーばかりでなく、スタッフや経営陣まで取り上げてドキュメンタリーに仕立てたもの。
結果的に若い人たちや女性など、これまではF1に興味を示さなかった人たちを、新規ファンとして大量に獲得しました。
デジタル戦略なる所以は、インスタグラムやティックトックなどのソーシャルメディアを使って、F1が絶えず魅力的なコンテンツを供給することでファンを繋ぎ留め、限定コンテンツやデータを提供する独自の配信サービス「F1 TV」へ誘導すること。
これらの活動から得られた、大量のファンデータを分析し、広告スポンサーに活用するシステムを構築しているのです。
アメリカ型巨大ビジネス
もっとも、これらは米国市場で起きている現象であって、その一方でこれまでたくさんの名選手を輩出してきた、ドイツやブラジルでは、F1ファン人口の減少が起きているというのですから、事態は単純ではありません。
欧州中心で” 貴族趣味的” 運営だと言われたF1は、こうしてモータースポーツからアメリカ型の巨大娯楽ビジネスへ変貌しようとしているのです。